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融けた氷

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私の片肺には、小さな氷がありました。
子供の頃から、レントゲン検査のたびに見つかる黒い影がそれです。



新月の日の明け方に見た夢。

19世紀のヨーロッパの、とある港町に、私はいる。
まるでモネの「日傘を差す女」のような装いで、髪を高く結い上げている。
傍らには、ふっくらとした頬に幼さの残る最愛の息子。
ブロンドの髪を肩の上で切りそろえ、碧い瞳。半ズボン姿が可愛い。

肌が少し汗ばんでいる。 季節は初夏、だろうか?

私は、旅立つ息子を見送りに来た。
彼との別れを納得できないまま、港まで来てしまった。
歳の離れた初老の夫への怒りを押し殺し (夫には逆らえない)
彼の命ずるままに、まだ幼い愛する者を遠くに送り出すために。

怒りと悲しみに心は千々に乱れ、今にも張り裂けてしまいそうだ。

息子は新しい旅立ちに浮かれ、屈託の無い明るい笑顔で母を見上げる。
  「上着を脱いでも、いい?」 「いいけど、海に落とさないでね」
上着を腕にかけ、船へ向かって歩き始めた息子の大人びた様子が切なく心を打つ。
陽光の射すタラップを、一歩ずつ上がっていく彼の足元を見送りながら・・・
絶望感でふらつく私は、この世に一人ぼっち。

  (彼とは、これが今生の別れとなるのに、どうして私は止められなかったのだろう?)

もう一人の私が、スクリーンを眺める他者のように、語り始める。

  私はその後、二度と戻らぬ息子を思いながら、悲しみと後悔の生涯を送りました。
  まだ若くして・・・ 悲嘆のあまり肺を病み、血を吐いて亡くなりました。
  その後の生においても、深い悲しみは癒えることなく、凍りついた涙は肺に留まり続け
  生まれながらに片肺に影(氷)を抱いたまま、人生をやり直すことになりました。

その氷が融け始めて、もう数年。
私が今世に生まれてきたのは、最愛の彼と、また巡り会うためだったのでしょうか。

by palty-yuria | 2006-05-28 15:09 | 夢日記